アルチンボルドが野菜で描いた皇帝
神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展
2017/11/03(金) 〜 2017/12/24(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
大迫章代 2017/12/11 |
「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」の福岡会場公式アンバサダーとして来福した片桐仁さん。個人的にも大好きだと言うジュゼッペ・アルチンボルドについて、「ルドルフ2世展」福岡会場の感想や、自らのアートの志向について、講演会後のインタビューでたっぷり話を聞いた。
※講演会レポートはこちらからどうぞ!
Q:「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」を見た感想は?
片桐:最初の部屋の肖像画の多さに驚きました。肖像画が多いと言うことは、かかわっていた画家の数も多いと言うこと。だからアルチンボルドも呼ばれたのでしょうね。どの画家の絵もうまいけど、「もっと面白いヤツはいないか」みたいな感覚で。展示は、我々からは想像もつかないくらいの富と権力の中心にいた人(ルドルフ2世)が本気で集めた作品の量と幅広さに驚かされます。錬金術から科学に移行していく時代、いろんな場所や分野から集まってきたものを、どう整理したのかを見るのも面白いですね。また、宗教戦争で、キリスト教の絵画も大変なことになっている中で、アートの世界でも混乱はあったはずなのに、「ルドルフ2世展」を見ると、そういう堅苦しい感覚がない。ルドルフ2世とアーティストたちの“突き抜け感”も面白いと思います。
Q:アルチンボルドの作品はどうでしたか?
片桐:皇帝だからかなり威厳をもたせて描いてはいますが、王様の顔をあんなふうに描くなんて、世が世なら殺されてもおかしくない。他にも、彼の肖像画(風刺画)には、人の顔を本だけで書いたもの、鶏肉だけで描いたものなどがあり、実際のモデルを知っている人には、大ウケだったそうです。まさに、栄華を極めていた神聖ローマ帝国時代だったからこそ生まれた絵。そんな絵を、今の時代にも見ることができてありがたいですね。
Q:国立西洋美術館で行なわれた「アルチンボルド展」はご覧になりましたか?
片桐:家族で1回だけ見に行きました。美術展に家族で行くことはめったにないので楽しかったですよ。子どもと「エビは何匹いるか」みたいなクイズ大会になって。アルチンボルドの絵との出会いは、小学生のとき。美術の授業で先生が《冬》を見せてくれ、すぐ真似しようと思ったんですけど、全然真似できなかったのを覚えてます。僕は、こういう小さい何かを集めて人の顔を作ることとかが大好きなんです。アルチンボルドの作品には「人間は何でできているか」というテーマや、宗教観、死生観が揺らいできた時代の死生観がしっかり盛り込まれているのも面白いですね。
Q:もしも、アルチンボルドに会えたら何を聞きたいですか?
片桐:「次は何の素材で描くんですか?」とか、「どこから描くんですか?」とかかな。制作の過程を観てみたい気はしますね。スケッチは残ってないけど、きっと大量の下書きがあったはずです。それと、「どんなことを考きながら絵を描いていたのか」は知りたいですね。
Q:ルドルフ2世の時代のアートについてはどうですか?
片桐:この時代の重厚で下品な感じの作風は大好きですね。引き算で極めていく日本的なわびさびの世界とは真逆で、いろいろ盛って“わびさびないなー”っていう感じ。ハプスブルク家が斜陽していく前の<ファンタジー>があるんですよ。錬金術も一種のファンタジーですけど、ただの思い込みを本気でやることで、気づくことはたくさんあったんじゃないかな。日本でいうと、信長や秀吉のような富が集中しつつも、科学一番主義ではない時代。人の考える知識欲、欲望を垣間見られる時代の文化が僕は好きですね。
Q:ルドルフ2世について
片桐:ルネッサンス後の過渡期で、画家が何を描けばいいかと迷っている時期に、ルドルフ2世が動物をいっぱい連れてきて描けと言ったり、指標を示しているのが面白い。今の現代美術には“考えるひと”というアーティストもいるくらい。ルドルフ2世もある意味“考える”アーティストだったのではないかと思います。
Q:本展全体で感じたことはありますか?
片桐:美術館ではなくて博物館でやっているという面白さを感じました。絵画だけでなく、工芸品や、科学で使われる器具や工具もたくさん展示されていて、工芸好きな日本人好みの展示会だと思います。
最後に
先日、九州各地の美術館をめぐる家族旅行にも行ってきたという片桐仁さん。「各地にいい美術館があるのに、行く人が少ないのはもったいない。震災などもあり大変な時期ですが、そんな時だからこそ、「アートはなくなっちゃいけない」と思う。美術館や博物館の魅力を伝えるためにも、“アンバサダー”的な活動をもっとしていきたいですね」と語ってくれた。
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