九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 36

【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 36

Thumb micro fa6a5588b3
藤浩志
2017/12/12
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

食うために働く?​

 食うために働いていると人は言う。本当だろうか?もらっている1カ月分の給料すべてを使ってお米を買った。1トンのお米が買えてしまった。1トンというのは10キログラムの袋だと100袋分。節約して食べて行けば10年近くは食べて暮らせる。米と水だけがあれば生きて行けるとの幻想はある。パプアニューギニアの奥地では自然の恵みに囲まれてコミュニティーの中で暮らしていることだけで豊かで、いくらお金を持っていても使う機会がない。
 しかし、東京で暮らし始めると、その現実はどうだろう。実家を離れ、自然と離れ、親戚縁者とも離れて暮らしているので、現金に頼る生活になってしまう。たとえ無償で取り壊しになる前の廃虚に暮らしているにしても、光熱費、通信費、交通費、コンピューターやバイクのローン、たまに行く同僚や友人との付き合いや、意味がわからない将来の保険や年金、税金などで手元に残るお金は少ない。食べるためと言いながら、生きてゆくためというよりはむしろ、活きてゆくため、活動をするためにお金が必要なのだ。
 食うという点から考えると、自然との、友人や親戚や生産者との、関係をしっかり持っていて、信頼されるところにいて、自然のために、人のために、動いてゆくことができれば生きてゆける。そんなことを考えていた。
 それにしても問題は買ってしまった1トンのお米である。実は勤めていた会社の社長がアフリカなど開発途上国での飢餓問題に対して、募金と署名活動を行っていたことに対する違和感から、僕なりに何ができるかを考えた結果のデモンストレーションだった。青年海外協力隊での活動の経験から募金と署名では飢餓は無くならないという確信のようなものを持っていて、食糧問題の本質を探る過程で直面する食糧が持つ「輸送と保存が困難」という問題を身をもって体感する行為だった。
 当初は全部食べるつもりでいた。何年かかっても一切捨てずに食べ続けようとした。しかし、1年も経(た)つと、お米に虫が湧き始めた。(美術家。挿絵も筆者)=8月18日西日本新聞朝刊に掲載=

連載:地域と美術のすきまのやもり 一覧

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 070f2343ce

江口寿史展
EGUCHI in ASIA

2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館

Thumb mini 199fb1a74c

挂甲の武人 国宝指定50周年記念/九州国立博物館開館20周年記念/NHK放送100年/朝日新聞西部本社発刊90周年記念
特別展「はにわ」

2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館

Thumb mini 3accedd64d
終了間近

Yamaguchi Seasonal 2024/大友良英+青山泰知+伊藤隆之
without records

2024/07/20(土) 〜 2024/12/15(日)
山口情報芸術センター[YCAM]サテライトA

Thumb mini f96672f31f
終了間近

Yamaguchi Seasonal 2024/坂本龍一+YCAM
Forest Symphony

2024/08/10(土) 〜 2024/12/15(日)
常栄寺

Thumb mini f569560511
終了間近

あらがう

2024/09/14(土) 〜 2024/12/15(日)
福岡市美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<84> 【連載】開かれる世界 異常事態の渦中で 取り戻される日常

Thumb mini ba3135c76e
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<83> 【連載】コロナ禍の変化 国内の文化資源だけで 示唆に富んだ企画展も

Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<82> 【連載】ポスト・コロナの行方 深層には恐れや執着  「夢」の推移に注目を

Thumb mini c32a1e9f35
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<81> 【連載】政府の新指針 無意識の「風景」に マスクは定着したか

Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<80> 【連載】無形の「副反応」 震災の二次的被害同様 「関連死」はこれから?

特集記事をもっと見る