江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2023/03/10 |
少し前にこの欄で昨年末に亡くなった建築家、磯崎新について触れたが、今年に入ってからもあらゆる分野で次々と著名人、功績者たちの他界が続いている。新型コロナの犠牲になったということでなくても、コロナ・パンデミック下で亡くなったということで後々意味をもってくるのではないか、というのはすでに書いた。それにしても多い。自分がどの人物から過去に強い影響を受けたかによって感慨も違ってくることだが、個人的に名を挙げても、世界最高峰のロック・ギタリスト、ジェフ・ベックや、米国の初期パンク・ロックの立役者でギタリストとしてもたいへんユニークな存在であったトム・ヴァーレインの死などは、かつてバンドを組み、彼らのギター・プレイに大きな影響を受けた身としては思うところが大きい。ギタリストと言えば久留米出身の鮎川誠、ほかに元YMOのドラマー高橋幸宏、ポップ・ミュージックの世界との結びつきが深かったグラフィック・デザイナー信藤三雄らも次々と世を去っている。音楽の、しかもポップ・ミュージックの世界だけでもこれだけの顔ぶれだ。が、それだけではない。ここに名を挙げた人たちに共通するのは、実は70代での死という、超高齢化時代の到来と逆行するような「若い」年齢なのだ。
もちろん、ここで新型コロナによる、たとえば未知のワクチン接種による副反応の潜在的な悪影響などについてあげつらうつもりはない。けれども、その早すぎる死が、では果たしてコロナ・パンデミックとまったく無縁であるかと言えば、そこについては考えてみる余地があるように思われる。なにせ、かれこれ3年にもわたって、それ以前とはまったく異なる「新しい生活様式」を強いられ続けたのだ。衣食住のすべてにわたって著しい変化があっただろう。それに、もともとが外へとおのれを表出し続けることで生き延びる力を発揮してきた表現者ならなおさらだ。その「外」が失われたなかで、ひたすら「中」へと籠(こも)ることのストレスはいかほどのものだったか。
前回、わたしはロシアとウクライナとのあいだで始まったコロナ・パンデミック下の戦争について、外交や会談がリモートやオンラインに依存し、「内へと籠る」志向が著しく強まったことによる意思疎通の齟齬(そご)が影を落としてはいないか、と問うた。もしそうなら、同じようなことが、コロナ・パンデミックの時期に偶然であるかのように起きているこれら「大きな死」についても、なにがしかの関連があって不思議ではない。
たとえば震災では、直接に地震や津波の犠牲とならなくても、その後の長期にわたる避難生活や環境の激変、精神的なストレスや体力の低下による二次的な被害が生ずることがわかっている。としたら、今回のコロナ・パンデミックから生じる、あえてそう形容すれば無形の「副反応」が、その本当の姿をあらわすのは、まだこれからかもしれない。2023年の春の訪れとともに、新型コロナが「5類」に移行されれば、街は外見上、かつての賑(にぎ)わいと平穏を取り戻すだろう。だが、まず70代という「現役の高齢者」へと降りかかったかに見える「二次被害」が、それに後続する世代にとってどのようなかたちをとるかについて、わたしたちはまだ知らない。(椹木野衣)
=(3月9日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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