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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 26

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藤浩志
2017/11/18
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パプアニューギニアの常識

 パプアニューギニア国立芸術学校に来る学生は22の州政府から一人ずつ推薦されて入学してくる。何キロも先の音を聞き分ける能力を持っていたり、カヌーを早く上手に彫れたり、先祖の図柄を正確に描いたり、リズム感がずば抜けていたりと、美術や音楽に関わる特殊な能力を持って入学してくる。彼らは生まれ育った原初的な生活を離れ、首都のポートモレスビーで暮らし、様々な現代の価値観とぶつかることになる。シャワーを浴び、体を洗う習慣がないところからやってくる学生の中には、寮でシャワーを浴びるという恐怖の通過儀礼を体験し、風邪をひいて寝込む者もいるのだとか。
 ほぼ赤道直下に位置し、日本の1・5倍の面積がある熱帯雨林の国。標高4509mのマウントウィルヘルムという山がある高山地帯や、セピック川・ケレマ川と蛇行した湿地帯をつくる大きな川で陸路が遮断されていて、人の行き来が困難な地理的条件もあり、500を超える部族が800を超える種類の言語を使って生活をしている。
 赴任当初、学生のことを知りたくてヒアリングを試みた。家族構成を聞いても、父親が4人いるとか母親が5人いるとか意味がわからない。そもそも年齢を聞いても知らないという。宣教師が地域に入ってきて教会を作り言語教育を始めるまで、1年という概念がなかったのだとか。四季があるわけでもないし、年中収穫できるので収穫祭もない。そもそも1年とか1時間とかの時間の概念を必要としていない。
 婚姻の制度も地域によって異なり、ある村では男の家と女の家に分かれて暮らす共同生活が基本だったとか。産んでくれた母親よりも育ての親が大事だったり、教養のある人が父になったりと様々(さまざま)。僕が赴任したのは建国10年目。建国以前は戸籍とか教育制度とかも整備されていなかった。僕の学生はなんとなく16歳ぐらいから25歳ぐらいの雰囲気だが、最後まで年齢がわからなかった。日本の常識が脆(もろ)く、無意味なことを知った。(美術家。挿絵も筆者)=8月4日西日本新聞朝刊に掲載=

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