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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 21

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藤浩志
2017/11/07
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関係と存在

  福岡の百道浜は理想の街をつくることを計画して、埋め立てによって作られたところだ。人工の海岸、ドーム型球場、大型リゾートホテル、図書館、博物館などの文化施設、多くの企業のビルもある。そこに隣接して有名デザイナーが関わった大型のマンション、美しい景観の住宅地、小学校もある。
 その計画に携わった教授の思いもあり、福岡市の市民研究員制度というものを利用してその街の15年目の検証に参加する。僕は子どもの環境についてのヒアリング調査を担当。子ども達の遊び場や過ごし方を調査する。
 ある一人の中学生女子にヒアリングしたときのこと。彼女は苛(いら)立ちながら「このまち関係ないとこばっかり!」と吐き捨てるように言った。関係がない。関係のあるところがないのだ。子どもだけでは立ち入れない海岸、施設、企業、個人宅。わずかな児童公園には子どもたちの縄張りが厳しい。彼女の居場所は自宅の部屋の中にしかなかった。
 家にいるオヤジも、子どもたちとの接点や関係がないとすると、はたして存在しているのかどうかわからない。逆に存在を作るためには関係が必要になる。どのような関係にあるのかが重要なのだ。
 津波ですべてを流された知人がいた。家族も職場も家も街も流された。彼女だけはたまたま他所(よそ)に行っていたので生き残ったが、彼女は自分が存在している気がしないと語った。関係するすべてのものを失ったとき、人は自分の存在を感じることができなくなる。
 逆に言えば、様々な関係が自分という存在を作り出す。親との関係、家族との関係、職場の人との関係、街の人との関係。苛立っていた中学生はそのすべての関係がうまくいっていなかったのかもしれない。津波や震災、あるいは様々な被害を受けて傷ついている人には、小さくてもいいし、ゆるやかでもいいので、新しい関係が必要なのだと思う。どんな関係でもいい。少しでも関係をつないでゆくことができれば、自分自身の存在をも作ってゆくことができるのだと思う。(美術家。挿絵も筆者)=7月28日西日本新聞朝刊に掲載=

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