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【レポート】微笑みに隠された多文化――『タイ~仏の国の輝き~』を勝手に見る

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アルトネ編集部
2017/05/09
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S:タイの美術といって、作品をイメージできる人って少ないだろうな。だいたい日本人は「タイ」といえば何を思い出すんだろう。トムヤムクンとかかな。

P:バンコクの大学で、学生さんが先生に向かって両手を合わせて挨拶をしてたのがなんかよかったよ。礼儀、そして仏教の国。

S:日本だと先生が「俺はまだ生きとるわい!勝手に殺すな!」と怒りそうだな。

P:「微笑みの国」ってチラシにあるけど、確かにそんな感じがするよ。

S:そういうステレオタイプ化するキャッチフレーズが一番いけないんだ。実際の作品を見ても先入観を確認するだけになっちゃうから。だから僕は解説なんて読まない。

P:でもあちこちにあるワンポイント解説がすごくわかりやすくてよかったよ。上座部仏教のこととか。

S:福岡アジア美術館でタイ作家の所蔵品をまとめたコーナー展示『静寂な混沌(カ
オス) 福岡がみつめたタイ現代美術』(5月11日~12月25日、アジアギャラリー)があるんだけど、そこにタイ近代美術の名品中の名品、キエン・イムスィリ(1922~1971)の『音楽のリズム』が展示される。その作品にはスコータイ彫刻の影響があるといわれているから、九博のタイ展で典型的なスコータイ時代の仏像を選ぶと、『仏陀遊行像』かな。……うーん。体全体の流れるような曲線が似ているといえば似てるが……

左:《仏陀遊行像》   スコータイ時代 14~15世紀 サワンウォーラナーヨック国立博物館
右:キエン・イムスィリ《音楽のリズム》
1922/1971年 ブロンズ 53x39x36cm 福岡アジア美術館所蔵 撮影:四宮佑次


P:座って笛を吹いている『音楽のリズム』と、正面向いて立っている『仏陀遊行像』だと、ポーズがちがいすぎて比較しにくいよね。

S:「遊行(ゆぎょう)」ポーズで、片足浮かせ歩いているから体はわずかにひねっているけど、『音楽のリズム』みたいに極端にひねっているわけではないし……スコータイ仏の正面性とは正反対に、『音楽のリズム』のほうは見る角度で変化に富んでいる。両手と両足でかかえこむ空間に、イムスィリが学んだヘンリー・ムーア(1898~1986、イギリスの代表的な抽象彫刻家)の影響があるかもしれない。顔もスコータイ仏とはぜんぜんちがって、ブランクーシ(1876~1957、パリを中心に活動した抽象彫刻家)ぽいかな。

P:他の仏像でも『音楽のリズム』みたいなのはないよね。

S:しいていえば、『ハリハラ立像』の肩、腕と手かな。ハリハラがストレッチ体操をすれば『音楽のリズム』になる。腰痛対策か? 

《ハリハラ立像》スコータイ時代 15世紀
バンコク国立博物館


P:Sも背中がこってるならストレッチとかウォーキングとかすればいいのに。こないだ根津美術館で見た高麗仏画でも阿弥陀様が横向きに歩いているみたいなのがあったよ。あちこちまわって多くの民衆に教えを説くアウトリーチ活動中。(Sは絶対そんなことしないよね、と言いかけてやめる)

S:でもこの『仏陀遊行像』はまじめに説法しに来たようには見えないぞ。亡くなったお母さんに説法しに行って天国から帰るところで、あ~、超うざい義理を果たした、やれやれ、って感じじゃないか。微笑んでいるというよりなんかへらへらしてる。

P:(それって解説を読まないとわからないのでは、と思いつつ)その割にはカメラ意識してるよ。ファッション・ショーのモデルさんが、しゃなりしゃなり歩いて、一番前に来てポーズを決める直前みたいな。

S:そのたとえはこりすぎてないか。でもまあ、他のスコータイ時代の『仏陀坐像』でも、下々の衆生に慈悲を、っていうのじゃなくて、胸をそらして、エバっている。

《仏陀坐像》スコータイ時代 15世紀
サワンウォーラナーヨック国立博物館

 

P:ひょっとして上座部仏教だからじゃない? 個人が自力で修行したり徳を積まないといけないから。

S:大乗仏教の阿弥陀様に甘えてきた日本の人が見たら、サービスがなってない、お賽銭返せ、とツイッターに書かれるかも。

P:そうだね、自分の修行に集中しているね。他人のことなんてどうでもいいSみたい。

S:(無視)鎌倉時代の慶派作みたいな筋肉はないけど、頭をまっすぐに起こし肩と腕が一体となったような造形がたくましい。まず肩こりの心配はなさそうだな。

P:Sは猫背なのに、お医者さんに言われてもぜんぜん肩甲骨を寄せる体操とかしないからね……。

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