西日本新聞創刊140周年記念特別展
新・桃山展-大航海時代の日本美術
2017/10/14(土) 〜 2017/11/26(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
アルトネ編集部 2017/11/07 |
世界一周の航路が発見され、人々が新大陸を目指していた大航海時代。日本では天下人がヨーロッパと積極的に交流し、安土桃山文化が華やかに幕を開けた。今回の「新・桃山展 ―大航海時代の日本の美術」はそれぞれ異なる外交策をとった織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を案内人に、123件もの名宝を“大航海時代の日本”という視点で見つめ直している。
なぜこの作品がつくられたのか。どうしてこの技法が編み出されたのか。桃山時代の外交の歴史を知れば謎が解けるのだ。
さらに、水墨画の巨匠・長谷川等伯の「国宝 松林図屏風」や、桃山文化を象徴する画家・狩野永徳の「国宝 檜図屏風」なども登場。二大絵師が共演するめったにない機会である。
まずは、海外と積極的に交流し、文化や芸術を取り入れた天下人・織田信長の時代から鑑賞しよう。桃山時代に造詣が深い安部龍太郎氏の講演会レポートもあわせて参考にしていただきたい。
(1)織田信長の戦いを支えた “輸入ルート”
ポルトガル人から鉄砲が伝わりイエズス会からキリスト教が伝来して、日本の商業と美術は大きく変わる。織田信長は、流通拠点の津島(愛知県)を治め莫大な資金を得て、近江で鉄砲を生産。境(大阪府)の商人たちに「軍事費2万元を出せ。払えないのであれば焼き討ちにする」と言い、今の価値で20億円もの資金を集めたという。流通拠点を支配した織田信長は、やがて貿易も支配していった。
火縄銃。国産化に成功して天下統一に大きな役割を果たした。ただ、材料の一部は輸入しなければならず、安部氏によると「輸入ルートを持っていた者が戦いに勝った」のだという。
信長はイエズス会に仲介を頼み、ポルトガルと交易をしていた。イエズス会とは友好的な関係を保つため京都に南蛮寺をつくり、定住も布教も許して保護している。この外交関係を力に信長は天下統一へと大きく歩みを進めたのだ。
1580年にポルトガルがスペインに併合されると、スペインと外交関係を築こうとしたが交渉は決裂。信長はイエズス会と手を切った。「この交渉決裂で日本の政情が不安定になった」と安部氏。やがて信長は1年も経たずして殺されることになる。
(2)バテレン追放令を出した豊臣秀吉
その後天下をとった豊臣秀吉の時代には、長谷川等伯の手がけた優美な屏風絵や茶聖・千利休ゆかりの茶陶の名品が数多く残されている。利休は唐物を最高級のものとする価値観とは異なる美を見いだし、茶杓、竹花入、釜、そして茶碗に目新しい品々を積極的に取り入れた。
また、将軍家の座敷飾りでは「無用」とされたが、侘び茶のなかで高く評価されている灰被天目、朝鮮半島の日常雑器・高麗茶碗も会場に展示されている。
秀吉は1587年に筑前国箱崎(現福岡市東区箱崎)で「バテレン追放令」を出し、西洋の思想や文化を閉め出そうとした。しかし、各地の教会やセミナリオを中心に西洋芸術は浸透していく。当時の屏風には貿易船団や「太陽の沈まぬ国」と言われたスペインや、ポルトガルの人々が描かれるようになった。
(3)そして徳川幕府の統制で時代は鎖国へ
豊臣秀吉亡き後、天下をとった徳川家康は、朝鮮出兵で破綻した国際関係に手をつける。国交を回復し、東南アジア諸国と朱印船貿易を開始。さらに、豊後国(現大分県)に流れ着いたオランダ船の乗組員を外交顧問に迎え、オランダ、イギリスとも外交をはじめた。
第2代将軍秀忠の治世になると幕府は禁教令を出し、全国のキリスト教徒を弾圧する。やがて、禁教と貿易の統制をもって1639年に鎖国が完成し、花開いた南蛮美術も姿を消していった。
「外交」を通して桃山時代以降の芸術作品を見ると、教科書やドラマでは描かれない歴史が見えてくる。安部氏によると「本能寺の変が起こり、狼狽する秀吉に『天下をとるなら今』と黒田官兵衛が進言するシーンをテレビでよく見ますよね。実は黒田官兵衛の背後にはキリシタンがいたと言われているんです」。国内の政治や勢力関係にも外交が大きく関わっていたのだ。
そんな歴史の知られざる一面に迫る「新・桃山展 大航海時代の日本美術」は、11月26日(日)まで九州国立博物館で開催中だ。
奥永 智絵(おくなが・ちえ)
株式会社チカラのライター・エディター。1978年生まれ、
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