コレクション展:メッセージ―アジア女性作家たちの50年
2020/03/21(土) 〜 2020/06/23(火)
09:30 〜 18:00
福岡アジア美術館
2020/06/19 |
不穏な暗緑色を背景に、子どもを膝に抱き、こちらを見つめる3人の裸の女性。インドのゴギ・サロージ・パルの絵画「彗星(すいせい)の降下Ⅰ」は、売春による望まない妊娠をした母親が多数いるインド社会の問題を表現した。個々の個性が消えた同じ表情の3人は、この境遇の女性がどこにでもいることを暗示する。
女性差別の是正や権利の拡張を訴える運動は、1960~70年代に広がったフェミニズム以降、さまざまに展開した。福岡アジア美術館のコレクション展「メッセージ―アジア女性作家たちの50年」は、そうした社会状況やムーブメントに呼応した作品を紹介する。
その多くが怒りや悲しみを内包し、一部は実際の事件や因習を告発するが、それ以上に、主義、主張とは対極の日常や現場感覚がくみ取れる。例えば「彗星の―」では、中央の女性の後ろから薄く光が差し、神聖な雰囲気が漂う。厳しい立場の女性に向ける作者の敬意のまなざしがにじむ。
ネパールのラギニ・ウパデハイ・グレラの「女」は、4本足に翼の生えた謎の動物を描く。鍵や翼は女性解放を象徴し、尻尾らしき部分に描かれた不気味な目や、いくつも押された手形などは、女性が多くの役割を背負わされ、期待されていることも暗示する。何かを諦めたような顔は、変わらない現状の中でも容赦なく訪れる日々の苦しみを表しているようだ。
声高にスローガンを叫ぶだけでは、変革に十分な効果は現れにくい。「女性であること」を問う一連の作品は、むき出しの言葉ではないからこそ、問題への共感と、その周辺への想像を促す。それは美術の営みがはらむ可能性も示唆する。 (諏訪部真)
◇福岡市博多区の福岡アジア美術館で23日まで。1970年代から現在までのアジア女性作家に光を当てた30点を展示。
=6月19日付西日本新聞朝刊に掲載=
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