「ダンス・ザ・イフク/太ンス宰府ク」展覧会
ひびのこづえコスチューム展示
2019/04/05(金) 〜 2019/04/27(土)
太宰府天満宮文書館
木下貴子 2019/08/06 |
三菱地所アルティアムにて8月25日(日)まで「ひびのこづえ展『みる・きる・つくる』」が開催中です。コスチューム・アーティストとしてこれまで膨大な数のコスチュームを手掛けてきたひびのこづえさん。作品づくりのアイデア、本展で仕掛けたこと、福岡への思い、今後の活動など気になることがたくさん! いろいろとお話をうかがってみました。
―会場に入った瞬間、わーって驚いてしまいました。各部屋で印象が違うのもとても面白いですね。
ひびの:展示するものがだいたい絞られた時に、それらをミックスするのはできないし、そんなに広い会場でもないので、回遊するように見せられたらいいなと思いました。
―展示されているダンス公演『不思議の国のアリス』の衣装は、私たちが思うアリスの世界に通じつつも、とてもユニークな世界観ですし、他の舞台衣装に関しても、考えつかないような表現がされています。アイデアはどこからくるのですか?
ひびの:仕事でつくる衣装はその時々のテーマによりますね。『不思議の国のアリス』では演出家の森山開次さんと、どうやってアリスの世界を表現しようってところから入りましたし、野田秀樹さんの舞台ではやはり台本をもらってからしか何もやりようがなく、そのなかで考えていきます。自分のアートワークとしてつくるものはまた違います。イムズプラザで展示している衣装(※写真1)は奥能登国際芸術祭(2017年)に出品したものですが、会場のある石川県珠洲市に下見に行った時に、日本海の海に入ったことがなかったんで潜ってみたら、南の海と違って海藻がふわふわとしてとっても美しくて。海の中で海藻が動いているのをどうやったら衣装にできるんだろうって思いながら作りました。それで、ああいう衣装を着て楽しく表現できるのはアクロバットができる人だろうと思い、(ホワイトアスパラガスの)谷口さんとハチロウさんに声をかけ、パフォーマンスをしてもらいました。
―海の生物、虫、植物など、自然からのインスピレーションはよくあるのですか。
ひびの:それが一番大きいですね。図鑑が好きだし、海に行くのも、自然の中にいるのもすごく好きです。でもわざわざアウトドアをするというようなことではなく、ふつうに街を歩くなかで、雨や空、木々など自然を感じることはいくらでもできると思っています。
―本展「みる・きる・つくる」は展示を見るだけに留まらず、衣装を着ることも、ワークショップコーナーで作品を作ることができるんですね。その意図は?
ひびの:最近の人たちは見るだけではあまり満足しない人が多くないですか? 奥能登国際芸術祭で初めて展示した衣装を試着できるようにしたんですが、それはもうみなさん喜んでくれて。ワークショップも開くとすぐに参加者が集まるので、みんな体験したいんだなって思って。いまはちょっとしたことで情報が入るし、あえて見に行くという行為よりも、体験して感じるものがほしいんだなって。バーチャルではなくて。そういう思いもあって、体験できる展示にしました。体験するとものが壊れるなどリスクは大きいしスタッフも大変だから今まであまりできなかったんですけど……いいか、壊れたら縫うかって。
―太宰府で毎年開くワークショップは今年で6年目。遡るとアルティアムで1996年に個展もされています。昨年も福岡や北九州でも公演をされ、福岡とのご縁を感じます。福岡の印象はいかがでしょう。
ひびの:やっぱり人柄ですね。昔から、日比野(編注:パートナーで現代美術家の日比野克彦さん)の仕事でもよく福岡にきたり、遊びにもきたりしてますが、本当に人間がおもしろい。わりとラフで、こっちが気を使わないというか……相手も楽しんでくれ、すぐに仲間に入れるような感じがある土地柄だと思います。つい気構えちゃって仕事だけ済ませて帰ってしまうような場所もなかにはありますが、福岡ではみんながいつもワイワイしていて居心地よい。それが福岡のよさだと思います。
―そう感じていただけて嬉しいです。展示では福岡の来場者に対してこう見てもらいたいとういう思いはあったのですか?
ひびの:本展を担当するアルティアムの安田さんが、昨年、市原湖畔美術館(千葉)で開催した私の個展を見に来てくれて、「これを福岡でもやりたい」と言ってくれたんです。でも、福岡での展示はすでに今年の春に太宰府でやることを決めていたので、別のアプローチであればできるかなって。それで体験ができるようにしたり、またダンス『不思議の国のアリス』は昨年ツアー公演で福岡でも上演しましたし、NODA・MAPの芝居も北九州で上演されているので、だったらそれらの舞台を実際に観た九州・福岡の人にとって、その衣装が近くで見られるようにしたらどうかと考えました。けっこう面白い衣装なので舞台を観てない人にとってもいいんじゃないかな、と。
―以前、「60歳になる直前に、本当にやりたいこと=人に本当の服を着せる事を見つけた」とおっしゃられていました。なぜその心境になったのでしょう。
ひびの:服を作り続けることで、私は、ようやく人とコミュニケーションがとれるようになったんです。子どもの頃は絵を描くなど一人で遊ぶことがとにかく好きで、あまり人と関わっていきたくないと思っていたんです。大学に入学し、そこで出会った人たちがとても楽しい人たちばかりで大学生活は充実しましたが、就職活動でまたちょっと落ち込んで、自分の表現を探していくなかで、絵を描くんじゃなくて服を作ることで自分らしさが出せることに気が付いて。でも服を勉強したことがないのに服を作るという心苦しさもあり、インパクトのある服とか絵を描くように服を作ってきました。だから人に着せるものを作ってても、人とコミュニケーションをしようという気持ちはなく、最初のうちはモデルさんに着てもらうだけで十分でした。でも、舞台の仕事をやるようになったり、パフォーマンスやダンスをやっていくなかで、だんだんコミュニケーションを避けて通れなくなってしまって。役者さんの中には衣装に対する思い入れを私に伝えて来る人もいて、それをうまく汲んであげないといけないなと思うようになったり、また、ダンスで衣装を着てもらった瞬間がとても美しかったりすると、その人に本当に素晴らしいってことを伝えたくなったり……そうするうちに人と話すということがとても素晴らしいことだと徐々にわかってきて。服を作るつもりがなかったのに服を作ることになってしまったと思っていましたが、それは誰かが私にちゃんとコミュニケーションしなさいよと、そのツールを服という形で与えてくれたんだなってことに、60歳を前にようやく気が付いたんです。
―それでご自身でもパフォーマンスを企画されるようになったんですか。
ひびの:日本でダンスやパフォーマンスがなかなか馴染まないのは、身体だけでみな勝負しようとするから。もっと人間の身体を見てもらうには、衣装の力を借りたほうがいいと私は思います。衣装を見せたいために私はパフォーマンスを作っているのではなくて、パフォーマンスでいろんな要素が加わるなか、衣装を脱いだ瞬間、パフォーマー自身だけが見えるというような、そのために衣装を作っているつもりです。その人に惚れ込んで服を作っているので、着せた途端に早く脱いでほしいなとか、ドラマチックに脱いでほしいなとか、脱いだ後に身体だけで勝負してほしいなって思っています。なかなか大変ですが。
―常に先を向いて進むひびのさんの姿勢に勇気をもらう人は多いと思います。これからどう活動していきたいか教えていただけますか?
ひびの:身体表現と、世代を越えてみんなが一緒に何かができるものを作っていきたいですね。ワークショップもお子さんが一人でやる、お母さんもちゃんと自分の作品を作るとか、パフォーマンスも小さい子が声を出しても現場にいられるとか、赤ちゃんが泣くから連れて来られないとか、そういう境界を振り払ってみんなが楽しめる状況を作りたいな。もちろんちゃんとクリエイティブであり、みんなが心豊かになるものであるという節度をもったうえで。もっとみんなが芸術を気軽に考えられて、美術とかファッションとかそういうものが特別な人だけのものではないことを伝えられるといいなと思います。
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