サンシャワー:東南アジアの現代美術展
1980年代から現在まで
2017/11/03(金) 〜 2017/12/25(月)
10:00 〜 20:00
福岡アジア美術館
木下貴子 2017/12/01 |
ここ最近、多くのアートファンのみなさんが「サンシャワー」という言葉を耳にしているのではないだろうか。福岡アジア美術館で開催中の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」(以下「サンシャワー」展)は、それ自体をはじめ、関連イベントや連携の展覧会など盛り上がりを見せている。
開会式には、本展のポスターのメインビジュアルにも使われた作品《奇妙な果実》の作者であるシンガポールのリー・ウェンさんが出席した。リー・ウェンさんは1994年に福岡市美術館で行われた「第4回アジア美術展」や、2000年の福岡アジア美術館の1周年記念イベントにも参加しており、福岡との関係が深い作家である。この機会に、今回の展示についてお話をうかがった。
美術作家・パフォーマンス作家であるリー・ウェンさんは、太陽、月、黄色人種など、様々な意味を強調するように「黄色」の塗料を全身に塗り、街を徘徊するパフォーマンス《イエローマンの旅》を1990年代から世界中で行ってきた。会場には、彼が1994年の「第4回アジア美術展」で行ったパフォーマンスで公開制作した作品と記録写真、記録映像による《イエローマンの旅 No.5:自由への指標》と、近作の《奇妙な果実》が並んで展示されている。
リー:パフォーマンス作品は記録写真や映像などでしか残せないものであり、再現するにしても展示の仕方が変わってしまいます。再現不可能性というか、メディアの力を越えてしまう性質をもっているのがパフォーマンスと私は捉えています。作家によっては記録を一切とらない人もいますが、私自身は実際のパフォーマンスと記録上のパフォーマンスは違うものと捉えたうえで、記録することを受入れています。記録資料を残すことによって、次世代の人たちの研究や調査に役立てられるという意義を感じているからです。
1994年の作品を再現した今回のインスタレーションは当時の展示とは異なるものの、再現することによって一つのエネルギーの流れがうまく作られたことに、とても嬉しさを覚えます。
―1994年を振り返ってみると?
リー:作品に関して言えば、私はアートというものは何かを問いかける手段、あるいは何かを考えるための道具と捉えています。ですから作品も展示という形で完結するのではなく制作の過程を経て、何を問いかけているのか、何を思考しているかというのが重要と考えています。1994年の時には米と鎖を用いてパフォーマンスを行い、床に曼荼羅のような模様を描いていきました。5日間のパフォーマンスでは、平和とか文化とか飢餓とか毎日違う問題をテーマにしました。当時、私が問いかけたこれらの問題が、いまなお現実にまだ残っているというのはとても残念です。ですが、いまも重要な問いであり続けているからこそ、今展で新たにこの作品を見た人たちも、自身との関わりを何かしら見つけられるかもしれません。
リー:《奇妙な果実》の写真には、海から陸に上がってきて街をさまよい、そしてまた海に帰るという一連の流れがあります。実際は12点組で構成したものです。でもここには、6枚しか展示されてありません!いけませんね(笑)。提灯のインスタレーションは外側よりも、中からみていただく構造体の方が重要です。この構造体のデザインはスリランカでアートキャンプという催しに参加していた時に思い付きました。そのキャンプがあったのが2002年9月で、その直前に911同時多発テロが起こりました。提灯の内部は、アフガニスタンの遊牧民のテントの構造と同じになっています。
―これまで《イエローマンの旅》というシリーズで展開されてきていましたが、この作品では《奇妙な果実》というタイトルを付けたのはなぜでしょう?
リー:「奇妙な果実」という歌をご存知でしょうか?ビリー・ホリデイという黒人女性シンガーによって歌われていたんですが、その内容はアメリカ南部の黒人人種差別がテーマとなっていました。この歌と同じタイトルにしたことで、作品を見た人から不謹慎だと言われたこともあります。見た目がユーモラスなことが原因ですが。しかし私は、ある意味自分たちはみんな「奇妙な果実」だと思っています。人種差別や民族差別という問題はどこにでもあるし、自分たちが被害者や加害者にいつなってもおかしくない状況にあると思っています。この作品を初めてシンガポールで発表した当時、シンガポール政府は文化へのサポートは積極的にしていましたが、パフォーマンスに対してだけ助成が閉ざされていました。そんな時に、私がこのパフォーマンスをしたこと、それこそが「奇妙な果実」でありました。そしてもう一つ、中国の外で生まれた中国人として私自身も「奇妙な果実」であるということ。身体を黄色く塗って象徴的に自分のその立場を表してきましたが、この時はさらに中国の料理店などで使われる提灯を被ることで二重に奇妙になっていますね。
―とてもメッセージ性の強い作品だと感じます。
リー:私の作品は政治的な問いを含みますが、センセーショナルなもので注目を集めようとしているとは思ってほしくありません。むしろ私としては作品を通して、重要ではないと思われている人たちの聞こえない声を代弁するというか、そういう人たちの声を聞くというようなことができればと思っています。
リー・ウェン Lee Wen
1957年シンガポール生まれ、同地と東京在住。シンガポールの代表的な現代美術作家グループ「ザ・アーティスト・ビレッジ」で活躍した美術作家、パフォーマンス作家。
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