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「荒れそうな空模様」の先へ【学芸員コラム】

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アルトネ編集部
2017/12/21
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福岡アジア美術館で開催されている「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」。本企画を担当する福岡アジア美術館学芸員3名によるリレー形式でコラムを寄稿いただきます。最終回は展覧会タイトル「サンシャワー(天気雨)」の由来にもなっているフェリックス・バコロールの作品についてです。第1回第2回もあわせてお読みください。(編集部)

サンシャワー展の展覧会場から廊下に出ると、天井から吊り下げられたたくさんのカラフルな風鈴が目に入ります。アイスキャンディーのようなポップな色がキラキラ光るインスタレーション作品《荒れそうな空模様》は、サンシャワー展でも、ひときわ人気が高く、展覧会期中、たくさんのSNSにアップされています。

フェリックス・バコロール(フィリピン)
《荒れそうな空模様》2009/2017年、作家蔵

20m続く廊下には、半透明プラスチック製の風鈴が約800個、四角い天井を埋めるように等間隔でぎっしりと並んでいます。この風鈴は、作者のフェリックス・バコロールが、フィリピンのマニラのマーケットで見つけたもの。マニラの旧市街キアポには、生鮮品や日用品の小さな露店が立ち並び、庶民の生活を支えるマーケットがあります。ここでフェリックス・バコロールは中国で大量生産された安いプラスチック製品の風鈴を見かけ、作品に用いることを思いつきました。

フェリックス・バコロール(フィリピン)
《荒れそうな空模様》(部分) 2009/2017年、作家蔵

バコロールは、フィリピン大学で絵画を学んだ後、広告業界でアート・ディレクションやデザインを手がけ、2005年から本格的に作品制作を始めました。自分を取り巻く社会や政治の状況をテーマに、日用品やおもちゃなどを用い、立体作品やインスタレーションとして発表してきました。この作品が初めて展示されたのは、2009年の初夏のマニラでのこと。その後、新しく展示するたびに空間にあわせて風鈴の個数や面積を変え、毎回異なる空模様を作り出しています。

日本では風鈴は、蒸暑い夏にチリンと鳴る音で涼しさを楽しむものですが、東南アジアでは、もともとは貝殻や竹などの自然素材で作られ、野生動物が畑にやってきたことや嵐の来襲など、何か人にとって危険なことを知らせるものでした。1個なら心地よい音を奏でる風鈴も、800個が一斉に音をかき鳴らすと、幾層にも重なるその音は、まるで非常ベルの警報のようにも聞こえます。しかも、天井をよく見れば、10台もの扇風機がわざとらしく風鈴の周囲の壁に取り付けられ、首を右へ左へと振って人工的に強風を巻き起こしています。永遠に続くかのような荒れた空模様の原因を作り出しているのは、自分自身なのです。

展示作品の下でトークするフェリックス・バコロール(2017年11月4日、福岡アジア美術館にて)

この展覧会に「サンシャワー」(天気雨)というタイトルをつけるきっかけともなった《荒れそうな空模様》。明るく楽しげに見える風鈴の森には、一抹の不安や見えない恐怖が潜んでいるようです。この風鈴の音は、いったいこの先の私たちに、どのような危険が待っていると知らせてくれているのでしょうか。展覧会は、12月25日まで。

(福岡アジア美術館学芸員 五十嵐理奈)

<サンシャワー展イベント情報>
学芸員によるギャラリートーク
■開催日

12月23日(土)14:00~14:30
五十嵐理奈学芸員による<ミャンマー、シンガポール>の作品を中心としたトーク

料金
要展覧会チケット(一般800円、高大生500円、中学生以下無料)
会場
福岡アジア美術館(福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7・8階)
問い合わせ先
福岡アジア美術館 TEL:092-263-1100

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