市民とつくりあげる過去最大規模の巨大彫刻を展示
関口 光太郎 in BEPPU
2019/09/21(土) 〜 2019/11/10(日)
トキハ別府店
2019/10/30 |
古くから多彩な文化が混ざり合いながら発展してきた温泉観光地・大分県別府市。今夏、東京から来た現代芸術家が共同浴場に通い詰めていた。関口光太郎さん(36)。同市に毎年1組のアーティストを招く芸術祭「in BEPPU」の今年の招聘(しょうへい)作家だ。テーマは多文化の共生。湯につかりながら思い描いた「世界の大陸が混浴するイメージ」を形にした。「混浴へ参加するよう世界を導く自由な薬師如来」と名付けた新聞紙と粘着テープの造形物は、幅約15メートル、奥行き約25メートル。別府に滞在したからこそ生まれた大作である。
あおむけに寝た薬師如来の大きな足の裏がこちらを向いていた。左右の足の間がトンネル状の入り口になっている。テーマパークのアトラクションに入場する感覚で通り抜けると、各国・地域を代表する名所や、動物を再現した茶色一色の空間が広がる。新聞紙をくしゃくしゃに丸め、ぎゅっと圧縮し、粘着テープを巻き付けた塊をひたすら連結した。圧倒的な物量だ。
ピラミッド、ビッグベン、マーライオン、スペースシャトル-。各地のモチーフを大陸ごとにまとめて配置。ルチャリブレ(メキシコのプロレス)のレスラーが空中技を決める瞬間など、好みを反映した着眼点も豊富だ。最奥部で見守るのは薬師如来の大きな顔。鑑賞者は薬師如来の体の上で、別府観光の定番「地獄巡り」よろしく、世界を巡るという趣向だ。
関口さんは今回、初めて別府の地を踏んだ。共同浴場で薬師如来の像を目にし、「混浴」というキーワードで世界を結びつける存在として選んだ。プライベートなはずの空間と時間を日常的に他人同士がともにする共同浴場。地元の人がいれば、観光客もいる。すっかり気に入り、滞在中は毎日通った。街全体で人々や文化が混浴しているように感じた。そうした肌感覚が制作に強く影響した。
5月末からは、大分県内の大学や美術館でワークショップを開いた。計1023人が新聞紙と粘着テープで、作品に取り込むパーツを作った。制作過程に県民を巻き込み、作る側と見る側の「混浴」も実現させた。粘着テープが醸し出す武骨さは、ごつごつした岩肌を思わせる。のぞき込み、くぐり抜ける仕掛けもあり、造形というより地形と言った方がよい。滞在中に見物した臼杵の磨崖仏や、耶馬渓の青洞門など、自然を利用した造形から受けた感銘が下敷きになっている。
関口さんは群馬県前橋市出身。多摩美術大彫刻科で石、木、ブロンズと、さまざまな素材と向き合った後、小学3年時から親しむ粘着テープと新聞紙を使う手法に立ち戻った。原型作りは楽しいものの、型取りはマニュアル的で面白くなく、「最初から最後まで自分のイマジネーションでやりたい」と思ったからだ。卒業制作がデザイナー三宅一生氏の目に留まり、氏主催の企画展に参加。2012年には第15回岡本太郎賞も受賞した。
気の向くままに手を動かした結果のように見えて、各モチーフ本来の質感、動物や人の表情はリアルだ。要所に心棒を配置し、ベースには確固とした構想がある。「彫刻の基本は重力への反発」と考える関口さんにとって、平面を立ちあがらせて容積を生む新聞紙と粘着テープの表現は、彫刻の延長線上にある。
特別支援学校教諭の顔もあり、知的障害のある生徒を受け持つ。絵を描かせれば、豊かな個性や面白さを発揮する子どもたちは「表現者として自由でいていいのだ」と、背中を押してくれる存在でもあるという。
芸術家でなくても、誰もが自らの思いを何らかの形に託せる。表現の世界は、本来誰もが立ち入れる。そんな思いから、会場に新聞紙と粘着テープで作品制作できる場所を設けた。成果は随時、「自由な薬師如来」本体に加えられる。会期最終日まで変化を重ねる大作は、来場者をも世界の混浴に招き入れていく。 (諏訪部真)=10月21日西日本新聞朝刊に掲載=
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