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福岡アジア美術館開館20周年記念展<連載5/最終回>市民巻き込み 生まれたアート【コラム】

2019/11/01 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 アジアの近現代美術を専門に紹介する世界唯一の美術館として開館した「福岡アジア美術館」(福岡市博多区)が、開館20周年記念展覧会を開催している。各地に飛び込み、作品の収集や研究、交流を重ねてきた学芸員たちが、収蔵品の中から「アジア美術の100年間をたどる」との触れ込みで厳選した展示作品を紹介しながら、20年の歩みを振り返る。

 

 「ガラガラガラー、ガラガラガラー」。店舗のシャッターの音で始まる約14分の映像作品《店を見る》。2015年に福岡市博多区の川端通商店街の16店舗を撮影した作品だ。商店街の日常の風景が、幼さの残る少年のナレーションで淡々と綴られている。普通の風景なのだが、店を守って日々を生きる人々への優しいまなざしが満ちている。
 福岡アジア美術館では、開館当初からアジアの美術作家や研究者を招き、美術を通じて交流する「招へい事業」をおこなっている。

チュンリン・ジョリーン・モク(香港)《店を見る》2015年

 《店を見る》は、この事業で70日間滞在した香港出身のチュンリン・ジョリーン・モクが制作した作品である。提灯店、2軒並んだ帽子店、銃砲店など、川端通商店街ではお馴染みの店が多数登場する。「店を見る」とは店員が「店番する」ことと、作家(または鑑賞者が)「店を観察する」ことの二つの意味をもつ。
 川端通商店街は、川端中央商店街と上川端商店街の二つの商店街からなる。制作にあたっては、モクに希望を聞き、まずは両商店街の振興組合、その後モクが選んだ店舗へとそれぞれ依頼した。両組合・各店舗に快い回答をもらい、撮影へと進んだ。
 撮影は約1週間かけて、各店舗の開店時間に合わせておこなった。最終的に出演者は各店舗の店主、従業員など25名、出演者以外の協力者を含めると総勢40名を巻き込む制作となった。普段は早口で底抜けに明るいモクだが、作品は静かで穏やかなものだ。日常の美しさ、愛おしさを感じさせてくれる映像作品に仕上がっている。
 本展の第二部「アジアのなかの福岡 交流する都市」では、アジアの美術家たちによる福岡での滞在制作の歴史を作品でたどっている。開館後の招へい事業に参加した作家は85名を数え、滞在成果の中から今回は19点を展示している。
 この事業は、福岡市民と関わりながら作品を制作する「市民共同制作」をうたっている。市内の小中学生から、戦争を知る世代まで幅広い年齢層の市民、また福岡在住の美術作家やデザイナー、音楽家、大学関係者など、内容も規模もさまざまであるが、これまで多くの人々を巻き込み、作品を作り上げてきた。
 例えば、アフガニスタン出身、パキスタン在住の細密画家ハーディム・アリーは、福岡の小学生が描いた花や動物の絵と、アフガニスタンの子どもが描いた銃を持った兵士や爆弾の絵を転写して作品化した。

ハーディム・アリー(パキスタン)《誰もいない台所 5》2006年


 モルディブから初めて招へいしたファンコグラフィックは、福岡のファッションデザイナー天本誠司氏と共同制作をおこなった。天本氏がモルディブの民族衣装をアレンジして制作した衣装を福岡のモデルが着用して市内各所で撮影した。
 美術作家による滞在制作は、作家本人の大きな経験となるだけでなく、関わった市民にとっても記憶に残る体験となる。異なる文化圏からやってきた美術作家の視点には、住んでいる者は気付かない見方や当たり前に存在するものへの気づきを与えてくれる。異なる文化をもつ者への敬意や寛容性を育て、包容力のある街を作ることにつながる。

ファンコグラフィック(モルディブ)《フュージョン・プロジェクト》2015年

 古くから外からの新しい風を取り入れながら発展をつづけてきた福岡。福岡アジア美術館は、福岡とアジアの豊かなつながりを育む美術館として、これからも歩んでいきたい。


 (山木 裕子 福岡アジア美術館学芸員)


=10月24日西日本新聞朝刊に掲載=

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