「鹿児島睦 まいにち」展
2024/04/24(水) 〜 2024/06/23(日)
10:00 〜 18:00
福岡県立美術館
2024/04/30 |
展示台は、どれもどこかの家や食堂の食卓のようだ。並んだ器には、猫や鳥、ヘビなどの動物たちと戯れるように咲き誇る花々が描かれ、朝、昼、夜と違う時間帯の食卓が表現されている。
木漏れ日の映像の真横に黄色を基調とした器がそろう「あさごはん」。自然光に近い照明が当てられた大きな卓を大勢で囲む様子が浮かぶ「ひるごはん」。そして薄暗い照明で、親密な空間を演出した「ばんごはん」…といった具合だ。
ここは福岡市出身の陶芸家、鹿児島睦(まこと)(57)の展覧会場である。その一角には、鹿児島が図案を描いた手ぬぐいやTシャツ、菓子のパッケージなどが並び、おしゃれな雑貨店が再現されたかのような空間も用意されている。多彩だがいずれも親しみやすい。
その作風のルーツは、鹿児島がかつて働いた同市・天神のインテリアショップにあった。
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一つは西鉄と岩田屋の共同出資で1966年にオープンした「NIC」(97年に閉店)だ。「インテリア」という言葉の響きがまだ新鮮だった時代に、箸置き、ランチョンマット、テーブルや椅子など世界の最新デザインの品々を紹介しており、当時全国的にみても珍しい刺激的な場所だった。鹿児島は美大卒業後の91年から勤務し、売り場を担当しながらデザインに対する感性を磨いた。
その後は「ザ・コンランショップ」に移り、売り場の管理や検品、客からの苦情対応も担った。特に定番で使いやすくシンプルな白磁の器をいつも買い求める常連客のことが印象に残っている。単純にデザインを追い求めるのではない。器としての機能を踏まえた上で「テーブルのど真ん中に置きたくなる楽しい器を」という現在の作り手としてのモットーは、この時代に出会ったたくさんの顧客と商品によって形成された。
35歳で独立。陶芸家としては早くないが、この経験が結果的に「近道になった」と鹿児島は振り返る。顧客本位で自分の表現にこだわりすぎない今の姿勢につながったからだろう。
その姿勢は、1880年代に英国で手工芸の再興を図ったウィリアム・モリス提唱の「アーツ&クラフツ運動」や、その影響を受けた日本の思想家柳宗悦の「民芸運動」にも連なる。
モリスは、産業革命がもたらした社会経済の激変によって増えた機械生産に異を唱え、手仕事にこだわったテキスタイルや家具、日用品を生み出した。鹿児島は「モリスは人々の生活を美しくするために死ぬまで努力した」と言う。
一方、柳は、名もなき職人による、作為的ではなく、生活の利便性を求めた実用品こそが美しいとする「用の美」を主張し、美しくないものに囲まれた人々の暮らしは「程度の低いものに落ちてしまう」とした。「楽しい器」を提供することを心がける鹿児島の美意識は、これを現代的にアップデートしている。
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鹿児島のアトリエを訪ねた。室内はすっきりした白壁で天井が高い。窓からは一日のどの時間帯にも太陽の光が差し込むという。土汚れなどは見当たらない清潔な空間で「仕事の7割は掃除かもしれない」と笑った。自宅に併設するもう一つのアトリエと合わせた2カ所が作業場だ。
丸皿に鉛筆で下書きを始めた。茎から描いて花が咲き、葉が左右に広がっていく。まるで植物が成長するかのように無作為に線は伸びていく。左右に向かい合う2羽の鳥が描き足されると下書きは完成。あっという間の3分だった。その後の色つけも茎から始め、赤色で施していった。
あまりにも淡々と進む作業は、芸術家というよりも職人と呼ぶ方がしっくりくる。同時に、絵柄の絶妙な配置や造形などのアレンジはセンスにあふれ、器の奥には、デザイナーや陶芸家のみならず、顧客も含めた先人の思想や技術への敬意が垣間見えた。職人的であり、アーティスティックでもある。それも鹿児島ならではの個性なのだ。
(丸田みずほ)
=敬称略
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植物と動物をモチーフにした図案の器やオブジェなどで知られる陶芸家鹿児島睦が地元・福岡市で初の大規模展覧会を開いている。人々になじみやすい素朴さがありながら、ジャンルを横断して独自の世界を展開する個性の秘密に迫る。
※【まいにちをつくる 鹿児島睦の世界㊦】はこちらから
■「鹿児島睦 まいにち」展
6月23日まで、福岡市中央区天神の福岡県立美術館。新作の器約200点と、ファッションやインテリアなど異分野とのコラボレーションで生まれた製品が並ぶ。一般1600円など。月曜日(5月6日は除く)と5月7日は休館。同館=092(715)3551。
=(4月30日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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