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本当はもう満たされているんですよ。国東宇佐の旅その4・御縁日で護摩焚き編/六郷満山展 開催記念(連載4回)【コラム】

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宮本喜代美
2017/10/25
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『大分県国東宇佐 六郷満山展 〜神と仏と鬼の郷〜』@九州国立博物館の開催を記念して、フォトグラファー・川上信也さんと行く「国東宇佐の旅」。最終回の今回は、国東半島の最高峰・両子山の中腹に位置する両子寺へ。
 

山門では立派な仁王像がお出迎え。文化11年(1814)作と伝わり、総高約2.5mと石造仁王像としては国東半島最大級の大きさを誇る。
仁王様。広大な仏域に力強く守護の睨みを利かせている。

両子寺は国東の山岳修行の中心地として栄え、特に江戸期以降は六郷満山の総持院として全山を統括してきた。また江戸時代には、この地を治めた杵築藩の最高祈願所となっていた由緒正しき寺院である。
 

杵築藩主松平(能見)家から授かったという寺紋・雪笹。松平(能見)家と同じ紋である。

古刹ならではの巨木群が涼やかな木陰を作り、歩いていてじつに心地良い。広い境内には鎌倉時代の作と伝わる不動明王像や阿弥陀如来像、十一面千手観音立像など多くの御仏が祀られている。また厄よけや子宝にご利益があるとされ、特に子授け祈願日には全国から参拝者が訪れるほど。

岩の窪みに立つ奥の院。本殿奥の洞窟内では不老長寿の霊水が湧く。
深い緑に包まれ神秘的な雰囲気。「国東半島両子山遊歩道」として林野庁などが制定した森林浴の森100選にも選定されている。

両子寺の護摩堂の御本尊は不動明王で、不動明王の御縁日である毎月28日には護摩焚きが行われている。なんと今回、護摩焚きと精進料理のお接待が受けられる28日に取材に伺う、という幸運に恵まれた。じつは私は、護摩焚きが大好きである。護摩焚きは、崇高な炎の芸術!薄暗いお堂の中で高々と燃え上がる炎。その前で僧侶が密教特有のあらゆる手印を結びながら、真言を唱え続ける。お香の匂いが漂うなか、絶え間なく続く独特の声音のループに、しばしトランス状態となり、瑣末な悩みやもやもやが遠のいていく。。終盤には参拝者全員で般若心経を唱和するのだが、そのカタルシスたるや!心が洗われ、感謝の気持ちがしみじみと湧いてくる。
 

参拝者の願いが記された護摩木を炎に投じ、厄や苦難、煩悩を焼き尽くす護摩焚き。祈りや願いも炎とともに天に立ち上る。
お接待で頂ける精進料理。これまた心身が清められるような、みずみずしい味わい。

一連の行事が終わり、ひと息ついたところで、両子寺法嗣・寺田豪淳氏にお話を伺った。護摩焚きを体験しながら湧いてきた感謝の気持ちって、何だったのでしょう。

「満たされた、ということではないでしょうか。『感謝』は満足しないとできないもの。でも本当はいつも満たされているんですよ。〝ああなったら、こうなったら、私、もっと良くなるのに〟と思うかもしれませんが、お参りを通して自分の内面に目を向けると、ご先祖様がいて、この時代に生まれ…と、自分個人だけでは成り立たない不思議な縁によって生かされていることに気付けます。〝私はまだ未熟だ〟とか〝足りていない〟と思うより先に、まず手を合わせて、今生かされていることにただ感謝をして、この状態に満足をする。その機会を得られるのがお参りの場じゃないかなって思います」。

そんな高潔な気持ちで感謝していたか定かではないが、ひたすら「有難い」という思いが湧いてきたのもまた事実。国東という場所のなせる技だろうか。寺田氏いわく、

「国東では、ここからここまでがお寺、と、塀や門でビシッと区切られていませんし、国東半島一帯が神仏の神社でありお寺と感じます。もともと国東は、大きな奇岩や山に対して自然と湧いてくる敬意、それを感じるところにお寺や神社が築かれていった歴史があります。霊地、祈りの里といわれるゆえんは、そこから来ているんだと思いますね」。

寺田氏。護摩焚きの際の厳しい表情とは一変、穏やかに取材に応じてくれた。ちなみに寺田氏は、岩戸寺と成佛寺で行われる修正鬼会の鬼役も務めている。

「祈りというのは、大事だと思うんです。普段は、自分を省みる時間もないまま忙しく生活されておられるかもしれませんが、静かなお寺に来て、自分に向き合ってみるのも大事なことじゃないかな、と。御縁日には精進料理のお接待もありますから、心と体をデトックスしに、気軽にお参りに来てください」と寺田氏。

旅する理由は人それぞれだけれど、年に1回は自分と向き合う、修行のような旅をしてみてはどうだろうか。その選択肢のひとつとして、国東は間違いなく最適な場所である。

境内にある老木にも注連縄が。1300年もはるか昔から神も仏も鬼も区別なく敬ったこの地では、今も、万物に神が宿ると信じる尊い精神が息づいている。

朗報!

両子寺の御縁日が体験できる、JR博多駅発着のおトクな日帰りモニターツアーが運行決定。11/27(月)にも両子寺の紅葉狩りなどを含むツアーが行われる。詳しくは「博多発 さ吉くんバスツアーチラシ」をチェック!

 

 

この記事に関連するイベント
大分県国東宇佐 六郷満山展 ~神と仏と鬼の郷~
2017/9/13(水)〜11/5(日)
@九州国立博物館

 

<同時開催>
特別展 開山1300年記念「聖なる山 -六郷満山と仁聞-」
2017/10/20(金)〜12/3(日)
@大分県立歴史博物館

<両子寺のライトアップや非公開文化財の特別公開も!>
六郷満山開山1300年 寺院ライトアップ&特別イベント

2017/10月〜12月
*ライトアップや非公開文化財特別公開は公開寺院等により日時が異なる


 


宮本喜代美(みやもと・きよみ)
企画/編集/原稿書き
1969年奈良県奈良市生まれ。1991年、沖縄在住時に旅行情報誌のライターとなる。1993年に来福、シティ情報ふくおか編集部を経て1996年フリーランスに。現在は九州の旅行・観光にまつわる企画・編集・執筆業務を行うほか、情報発信を軸とした地域活性のアドバイザーなども務める。山や海など、風通しの良い場所をこよなく愛する自然派。せつない曲ばかりをかける音楽イベント「セツ☆NIGHT」も不定期で開催している。

川上信也(かわかみ・しんや)
フォトグラファー
1971年愛媛県松山市生まれ。福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。その後福岡を拠点にプロ活動を開始し、様々な雑誌撮影に関わり風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行っている。ライフワークとして九州の自然風景を撮り続けており、定期的に写真集を出版し、写真展やトークショーを開催している。

 

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