江口寿史展
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福岡アジア美術館
アルトネ編集部 2020/08/18 |
熊本県南部を襲った豪雨では、国や自治体に登録、指定されていない文化財も被害を受けた。特に古文書が水没した場合、一刻も早い処置が必要とされる。今回、県は「文化財レスキュー」事業を早々に開始。多くの未指定文化財を回収するなど一定の成果を上げた。一方、人命がかかる時期ゆえの難しさがありジレンマも抱えている。
「全部泥まみれ。たった数日なのにカビだらけでした」。同県人吉市の郷土史家、益田啓三さん(70)はつぶやく。自宅は球磨川のほど近く。7月4日朝の豪雨で2階床上まで浸水し、古文書約100点が被災した。多くが人吉藩主、相良家の関連文書で、幕府からの書状や家臣の日記などが含まれていた。直後にレスキュー事業を手がける熊本県文化課に連絡し、引き渡した。益田さんは言う。
「現物がないと存在すら知られてない一次資料が多い。ほかの片付けで手いっぱいの中で非常に助かった」
県文化課によると、豪雨被害があった翌日の5日から情報収集をスタート。所有者からの依頼分のほか、県が把握していた未指定文化財の実地調査を始め、これまで約770点(7月末現在)の文化財を預かった。その多くが古文書で、乾いた紙を使って泥やカビを落し、ひどいものは冷凍して湿気を除去している。
迅速ともいえる今回の対応には熊本地震の経験が大きい。2016年4月の地震直後に地元の歴史学者らが「熊本被災史料レスキューネットワーク」を設立した。国が動いたのは3カ月後で、県が翌年度に引き継いだ。県文化課の担当者は「特に水に漬かった紙資料は刻々と傷む。家の片付けの際に捨てられる可能性もある。だから早い対応が必要だった」と説明する。
人命と文化財 なおジレンマ 「未指定」価値付けも課題
ただ人命が脅かされ、生活インフラもままならない状況で「文化財は二の次」でも仕方がない。実際、被災直後の実地調査に同意しなかった自治体もあった。加えて幹線道が寸断された八代市坂本町、球磨村などへは入れなかった。最初の計画では7月中に調査を終える予定だったが、その見通しは今も立っていない。
昨年、同県多良木町の民家にあった古文書が、世界文化遺産の宗像大社(福岡県宗像市)大宮司家に縁があるとされる宗像才鶴の素性を示す貴重な資料だと分かった。旧家だけでなく神社、寺院には今も古文書が眠り、その多くの価値が把握できていない。
レスキューネットワーク代表で熊本大永青文庫研究センター長の稲葉継陽さんによると、古文書の99%は文化財に指定されていないという。稲葉さんは、古文書は、歴史、社会、地域文化の総体だとし、「たった数百年前の社会を知るすべを失っていいのか。文化財レスキューは災害復興支援そのものだ」と強調する。
今回、一時的に預かった未指定文化財は中身を吟味し、価値付けしていくことも課題となる。レスキュー事業には、短期だけではなく中長期的な対応も求められている。(小川祥平)
=8月7日付西日本新聞朝刊に掲載=
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