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常設展へ行こう!! 近現代までの逸品ずらり 福岡市美術館

2020/07/11 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 新型コロナウイルスの感染拡大で各地の美術館は臨時休館が続いた。緊急事態宣言の解除を受けて再開したものの、著名作品を国内外から集めるような「特別展」は混雑が予想されるのでほとんど行われていない。こんな時は「常設展」を見よう。そう思い立ち、手近な福岡市美術館(中央区大濠公園)へと足を向けた。 

 特別展のチケットにはよく「常設展(収蔵品展)も鑑賞できます」などと記されている。特別展を見て時間があったら回ってみようか、でも、“タダ”だから大したことはなさそう、やめとこう…。そう考えたことのある人は、私を含め少なくないはず。

 だが、なめてはいけない。各美術館のコレクションの中からえりすぐりの作品を披露するのが常設展であるからだ。たとえば福岡市美術館は、江戸時代以前の古美術から近現代美術まで1万6千点を超える作品を収蔵する。常設展ではシャガールやダリ、ミロ、草間彌生といったスター作家の作品がいつでも鑑賞できる。テーマを設定した数カ月単位の企画展示をはじめ、展示作品の入れ替えはかなりの頻度で行われており、いつ訪れても新鮮に感じられる。

福岡市美術館購入作品第1号のラファエル・コラン「海辺にて」

 今回、興味を引かれたのは19世紀末から20世紀のフランスで活躍した画家、ラファエル・コランの「海辺にて」。同館の購入作品第1号だ。柔らかな日差しの中、海辺で軽やかに舞う裸婦が描かれている。

 この作品にはちょっとした「裏話」があることを、作品に添えられた「おもしろキャプション」で知った。学芸員が解説したキャプションによると、コランはこの作品を描く際、水色の布を庭に敷いて海に見立て、布の前にモデルを立たせて写生したという。この裏話を明かしたのが、コランに師事した“近代洋画の父”黒田清輝(鹿児島出身)だというのが興味深い。

キャプションヘンリー・ムーア「ふたつのかたちによる横たわる人体No.2」について語る岩永悦子・福岡市美術館館長

 旬の展示作品は、20世紀を代表する英国の彫刻家、ヘンリー・ムーアの「ふたつのかたちによる横たわる人体 No.2」だ。横たわる人体の上半身と下半身を表現した二つの塊。荒々しい質感と、穴や空洞を含む起伏に富んだ造形は、自然が生んだ岸壁や洞窟を思わせる。JR博多駅前の西日本シティ銀行本店本館に設置されていたが、建て替え工事に伴い、絵画など27点の美術品と併せ2025年秋ごろまで同館で保管・展示される。

 「自然との調和」を生涯のテーマとしたムーアが後進に与えた影響は大きく、近現代美術室Cで展示中のアニッシュ・カプーアの「虚(うつ)ろなる母」や、インカ・ショニバレCBEの「桜を放つ女性」にも共通点を探ることができる。

不思議な存在感を放つカプーアの「虚ろなる母」
インカ・ショニバレCBE「桜を放つ女性」

    †    †
 美術館のコレクションは地域の文化財を守り、後世に伝えるという役割も担っている。1階コレクション展示室の「東光院仏教美術室」では、旧福岡藩主黒田家の菩提(ぼだい)寺の一つだった薬王密寺東光院(同市博多区吉塚)から寄贈された仏像群を一部入れ替えながら通年展示している。
 

金剛力士立像は筋骨隆々

 寺院の山門をイメージした入り口の両側には金剛力士立像が鎮座。展示室をお堂内部に見立て暗めの照明で厳かさを演出している。

薬師如来坐像(中央)などをどの方向からでも鑑賞できるように展示されている東光院仏教美術室

 中央には国重要文化財「薬師如来坐像(ざぞう)」、両脇に「日光菩薩(ぼさつ)」と「月光菩薩」。頭上に十二支の動物を乗せた「十二神将(しんしょう)立像」がぐるりと囲む。奈良時代に創建された奈良市の新薬師寺などの配置を参考にしており、美術品として鑑賞するばかりでなく、人々の信仰を集めたいにしえの姿をしのぶこともできる。

 左手に持った壺の薬によってあらゆる病を治すとされる薬師如来を見ながら岩永悦子館長が言った。「今だと、新型コロナのワクチンや治療薬がほしいですね」。アートをリアルに自由に楽しめる当たり前の日々が待ち望まれる。
 

温かみのある画風で人気が高い仙厓義梵の「猫に紙袋図」などの作品も展示している

(文・田中仁美、写真・古瀬哲裕)

 

<九州各地の主な美術館で開催中や開催予定の常設(企画)展>

◆福岡市美術館(福岡市中央区大濠公園) ▷夏休みこども美術館2020「みるみるこわい絵の世界」▷「殿敷侃(とのしきただし)」▷「芸術とパトロン」▷「コプト裂(ぎれ)と古代オリエント文物」=以上8月30日まで▷「仙厓展」は11月15日まで。原則月曜休館。一般200円ほか。092(714)6051。
◆福岡県立美術館(福岡市中央区天神) ▷「赤と黒」=「赤」と「黒」をテーマにした作品約70点を紹介。8月2日まで。一般210円ほか。月曜休館。092(715)3551。
◆北九州市立美術館本館(北九州市戸畑区西鞘ヶ谷町) ▷「シュルレアリスムを感じる7つの要素」=エルンストやダリの版画、国内外の作家の作品計150点を展示。7月26日まで。一般300円ほか。原則月曜休館。093(882)7777。
◆佐賀県立美術館(佐賀市城内) ▷「美の道をしめす-教育者としての岡田三郎助」=佐賀出身の日本近代洋画の巨匠・岡田三郎助の美術教育者としての姿を、親交のあった黒田清輝や藤島武二らの作品を含む14点から探る。8月30日まで。観覧無料。原則月曜休館。0952(24)3947。
◆長崎県美術館(長崎市出島町) ▷「奈良原一高-人間の土地」=今年1月に亡くなった福岡出身の写真家奈良原の追悼展で、炭鉱で栄えた長崎の端島(軍艦島)と桜島の麓の黒神村をとらえた初期作品26点を展示。7月26日まで▷「須磨コレクション1」=スペイン美術のコレクター、須磨彌吉郎の美術批評家としての側面にスポットを当て、収集作品29点を展覧する。8月10日まで。▷「スペイン近現代美術1」=ピカソ、ミロ、ダリなど20世紀初頭から現代までのスペイン美術15点を紹介。8月10日まで。一般420円ほか。原則第2、第4月曜休館。095(833)2110。
◆熊本県立美術館(熊本市中央区二の丸) ▷親子でみる美術展「二の丸動植物園」=旧熊本藩主細川家ゆかりの作品から「衣・食・住の世界」に着目し、お殿様やお姫様の生活に関わる約30の動植物たちを紹介する。7月18日~9月22日。一般210円ほか。原則月曜休館。096(352)2111。
◆大分県立美術館(大分市寿町) ▷「ブラック&ホワイト」=「白」や「黒」を基調にした水墨画、油彩画、書、版画、現代美術などの作品約80点を紹介。8月4日まで。一般300円ほか。097(533)4500。
◆宮崎県立美術館(宮崎市船塚) ▷「たのしむ美術館」=「名画と出会う」「みやざきの美術」「彫刻の世界」「瑛九の世界」の4つのコーナーに国内外の作家の作品約80点を展示。9月27日まで。観覧無料。原則月曜休館。0985(20)3792。
◆鹿児島市立美術館(鹿児島市城山町) ▷「新収蔵品展」=市内の陽山美術館から寄託された藤田嗣治やシャガールの名品を含む新収蔵品30点を紹介。7月12日まで▷「花鳥画の世界」=花鳥をモチーフにした絵画約10点を展示。8月10日まで。一般300円ほか。原則月曜休館。099(224)3400

=7月8日付西日本新聞朝刊に掲載=

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