江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
山出淳也 2021/05/06 |
額縁の外側を取り込むアート
以前、学生から「アートは美術館で展示したほうが、よりきちんと見えるんじゃないですか?」と素朴な疑問を投げかけられた。
確かに、ホワイトキューブといわれる美術館は、余計な干渉なしに展示を行うための場所である。作品がかかる壁があまりにも奇抜だと、額縁の内側にも影響を与えるだろう。
アートの表現手法にインスタレーションというものがある。パソコンにソフトをインストールするのと同様に、空間に素材を配置し作品化する手法だ。つまり空間全体をキャンバスに見立てるということ。この手法そのままに、美術館を飛び出したらどうなるか。アートがまちに出たならば?
ヨーゼフ・ボイスという伝説の芸術家がいた。彼は社会彫刻という概念を編み出し、政治活動を含めさまざまなアクションを続けた。彼は「人間は誰でも芸術家である」と語る。創造力による産物である『芸術』を『社会』と置き換えたとして、未来の社会像は今の姿とは異なっていいはずだ、皆でその姿を描こう。そう語りたかったのかもしれない。
最近、アートと企業の親和性が語られ始めている。変化し続ける現代社会。課題解決だけでは間に合わない。時にアーティストは、これまでに無い価値を生み出す。それは我々の生活や考え方をも変化させ、新たな未来を切り開く。そう定義すると、アーティストをアントレプレナー(起業家)と置き換えてもそれほどの違和感はないだろう。
サイトスペシフィックというアート用語がある。特定の場所のための表現。その作品はここじゃ無いと意味がないってことだ。クリスト&ジャンヌ=クロードというアーティストは、建物や自然を梱包(こんぽう)する壮大なインスタレーションで知られる。あるときは、旧ドイツ国会議事堂を銀色の布で包んでみせた。覆い隠すことで、その建物が持つ意味を僕たちは考える。もし他のものを包めば、また別のことを思い浮かべるだろう。
そうやってアートは額縁の外側を取り込み、世界の一部となっていく。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(1月13日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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