江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2020/08/17 |
ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。
【第15回】『お雇い外国人 明治日本の脇役たち』梅渓 昇著 講談社学術文庫
江戸幕府の崩壊にともなう国内の戦乱は、明治十年の西南戦争まで続くが、日本の近代国家の建設は、その動乱の中にあっても着々と進められていた。
このような激動の中での国造りに、助っ人として、これを支え、助言し、指導したのが、欧米先進国から招聘(しょうへい)された「お雇い外国人」と呼ばれる大勢の学者や技術者、そして軍人や芸術家たちであった。これら西洋人たちの献身的な貢献がなければ、日本の近代国家は到底実現しなかったのである。
この本は、これら官傭(かんよう)外国人の招聘がどのような国際情勢のもとでおこなわれ、どんな実績を上げ、そして推移していったか、その実態はどのようなものであったかを解き明かしている。
すなわち、帝国憲法草案をはじめとして、政治、法制、軍事、外交、経済、教育など、あらゆる分野に彼ら外国人の学識や技術や経験が投入されて、日本の近代国家の基盤がつくられていく。そのさまを各分野の代表的な人物を中心に、さまざまな統計も付けて語られていて興味が尽きない。
少しデータを紹介すると、招聘のピークは明治七、八年。職業別では技術者、教師が圧倒的に多い。総人数は八百人を下らないという。大変な人数である。報酬は驚くなかれ、わが国最高官位の太政大臣三条実美の八百円クラスが十人、岩倉具視、大久保利通ら参議の五、六百円はざらである。
読んでいくと、押し寄せる列強間の相剋(そうこく)を巧みにあやつりながら、国家予算が逼迫(ひっぱく)するほどの多大な報酬を払ってまでも、優秀な人材を招聘して、近代化を勇猛果敢に進めていくわが国の指導者たちの国家の危機に立ち向かう姿は、劇的ですらある。
また彼らの日常の生活ぶりなども語られていて、攘夷派の武士の襲撃から守るため、身辺の警固は厳重を極めていたことや、その後の人生のことなど、実に面白く読める内容になっている。
美術の分野でも、洋画のフォンタネージ、彫刻のラグーザ、建築のコンドル、哲学のフェノロサなど、西欧の近代美術を根づかせたお雇い外国人はかなりいる。
私などは、この人たちの業績を、つい美術の囲いの中でこと細かくとらえようとするきらいがあるが、この本のおかげでずいぶんと視野が広がった思いがする。美術も国造りの一翼を担っていた俯瞰図(ふかんず)が見え、収穫ある本だった(画家・菊畑茂久馬)
▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。
=2007年8月6日西日本新聞朝刊に掲載=
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