江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2020/06/24 |
ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。
【第4回】「坊ちゃん」直筆を楽しむ 漱石先生大好きぞなもし
夏目漱石の「坊っちゃん」を、漱石自筆の原稿で読んだ。と云(い)うとちょっと噓(うそ)。「直筆で読む『坊っちゃん』」(集英社)という珍しい本を読んだのだ。
いや本当を云うと読んでいない。すぐ投げ出した。直筆の原稿をそのまま印刷した本なんて読めたもんではない。
そこで漱石先生が、一旦(いったん)書いた文章をガリガリと消して書き直した、そのガリガリの下の文章を懸命にほじくって読んでみたり、用紙の汚れを、これ、ひょっとして漱石先生の指紋じゃなかろうかと、天眼鏡を引っぱり出して覗(のぞ)いてみたりと、結構面白く読んだ。いや遊んだ。
実は昔、漱石先生とは妙なご縁があった。かつて先生は熊本の内坪井町に住んでおられたことがあった。鏡子夫人と新婚生活を過ごした家である。その家に、わけあって義兄が住んでいた。家屋も広大な庭も当時のまま保存されていて、門の前には、その旨の立て札も立っていた。面白いのでよく泊まりに行った。
漱石先生が寝ていた部屋で眠り、同じ茶の間で食事をして、先生が使われた厠(かわや)で用も足した。今は市の漱石記念館になっているそうだ。そんなわけで、私は漱石先生が大好きぞなもし。(画家・菊畑茂久馬)
▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。
=2008年3月2日西日本新聞朝刊に掲載=
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