江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
秋吉真由美 2023/06/19 |
ごく普通の日常に隠れてる“かもしれない”非日常を感じさせる想像力で読者を虜にする絵本作家、ヨシタケシンスケさん。そんなヨシタケさんの初となる大規模個展「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が福岡市科学館で開催中です。デビュー作『りんごかもしれない』をはじめ、『つまんない つまんない』など約20作の人気絵本から、ヨシタケさんの豊かなアイデアが詰まったスケッチや絵本原画、展覧会のために考案した立体作品など約400点以上が展示されています。本展に込めた思いをヨシタケさんに伺いました。
――初の大規模個展。絵本作りとの違いは?
こんな大規模な展覧会は初めてなので準備は大変でしたが、とてもやりがいがありました。絵本は、いつどこで誰がどのような形で読まれるかは分かりません。なので反応をあまり気にせずに、僕が面白いと思う、僕が子どもの頃に読みたかった絵本はこれです!という気持ちでいつも作っています。この展覧会も、「本」と「空間」というアウトプットの形は違いますが、絵本作りと同じ姿勢で取り組みました。こんな展覧会があったら面白いと思うものを形にしたつもりです。
絵本作家の展覧会と言えば原画展が主流ですが、僕の原画はとても小さく、原画展だと空間が持たない(笑)。なので最初は、僕は展覧会に向いていないし、できないだろうなと。どうしたらできるだろうと考えると、会場でしか体験できないことを“作る”のが僕にとって一番大事かなと思いました。
――展覧会ならではの工夫は。
僕自身、子どもの頃、親に連れられて行った展覧会はすぐに飽きちゃって、絵ばっかり並んでてつまんないなと思ったのをすごく覚えているんです。親もゆっくり絵を見たいのに、子どもが帰りたいとぐずるからすぐ会場を出なきゃいけなくなる。そうなるとどっちも楽しくない。そんな僕みたいな子どもも面白がれる、大人も子どもも楽しめる会場にしました。
スケッチや原画をただ展示するだけでなく、遊べる楽しい仕掛けを盛り込んだ構成で、会場のあちらこちらにキッズスペースがあるようなイメージです。大人は大人なりに、子どもも子どもなりに自由に楽しめる。もちろん一人で来ても楽しめる。どっちも満足できるものを目指しました。
僕は作家になって10年ですが、10年前には作家になるなんて思ってはいませんでした。また、なりたいとも思っていなくて。そんな人間がひょんなことから作家となり、今回展覧会を開いている。子どもたちにはこんな人もいるんだよと教えてあげたいですね。何が起きるか分からないということをポジティブにとらえてもらえれば、僕がこういう活動をする意味があるのかなと思います。僕自身がひょんなことから作家になり、出会いがあり、思いがけない事の連続で今があることをすごく感じて生きてきた。その思いを誰かに共有することで、誰かの勇気になってくれたら嬉しいです。
――子どもはもちろん、大人も心をつかまれるのがヨシタケさんの絵本の魅力。
子どもにはまだ分からなさそうなネタ、逆に子どもにしか分からなさそうなネタ、その両方を入れたいなと常に思っています。読んだ後にどこかナゾが残る本は良い本だと思うんです。子どもが「このページ、意味が分かんないんだよな。なんでお母さんはこのページで笑うんだろう」なんて思ったページがあったりすると、将来大人になった時にもう一度、読んでくれるんじゃないかと。「なるほど、そういう意味だったのか」と数十年かけて答え合わせができたりすることが絵本のすごく良い所だと思います。
今回の展覧会も、今はよく理解できていない展示も、数十年経って振り返ると「そういうことね」と。「なるほど、こういうことを目指していたのね」と分かってくれるんじゃないかなと期待しています。大人向け、子ども向けとはっきり区別はしていませんが、何か良く分からないからこそ気になるという魅力もあるでしょうし、年齢を重ねてよく考えると深いテーマだなと感じたりすることもあるでしょう。時間をかけた仕掛けで、もっと満足してくださるのではないかと思っています。
――会場入口の挨拶文によると、一番の本展の見どころは“あなた以外のお客さん”だとか。
展覧会の開催にあたって、深く考えてみたのですが、空間の中にいるお客さんも展覧会を作る要素の一つなのでは?と思って。隣にいるお客さんたちを見て「へぇ~、『ヨシタケシンスケ展かもしれない』にわざわざ時間とお金をかけて見に来る人たちってこんな人なんだ~」って感じてほしいなと(笑)。それは何より、家で一人で絵本を読むだけでは分かりませんよね。例えば、コンサート。自分と同じ趣味嗜好の人達が一堂に会する高揚感ってあるじゃないですか。展覧会だって同じで、自分と同じものが好きな人たちはこの場所でしか巡り合えない。まさに一期一会。ヨシタケの絵本に興味があるという、たった一つの共通点だけで集まった人たちがこれだけいるんだと。これは展覧会をする一番大事な部分じゃないのかなと思ったんです。
すぐ隣で同じ絵を見ているお客さんを“見る”という面白さは、実は展覧会が提供できる一番の出会いなんじゃないかなと思います。なので入口の挨拶には「この展覧会の一番のみどころは“あなた以外のお客さん”です! なので、こっそり見てください」と書いています(笑)
――アイデアの宝庫となる膨大な約2,000枚のメモが圧巻。アイデアは常に記録を?
気になることはメモしています。そのメモから絵本になったものはたくさんあります。
すぐに記録しないと忘れちゃうような、どうでもいいことに興味があるので(笑)、忘れるのが逆にもったいなくて、手帳には外付けハードディスクのような役割をしてもらっています。
――学生時代の立体作品やヨシタケさんの私物コレクションの展示もユニークで貴重。
アイデアをスケッチしたメモや模造紙のほかに、昔作った作品も展示していますが、それは数十年間、ずっと段ボールの中に眠っていたものなんです。ずっと段ボールに入っていたのに、突然こういう形で奇跡的に全国の人に見てもらうことになって……。こんなこともあるんだなと、僕自身が驚いています。こんな風に何十年も段ボールに入りっぱなしのナニカが世界中にはきっとたくさんあるはずなんです。
アウトサイダーアートの巨匠ヘンリー・ダーガーは、彼の死後に大家さんが部屋に片付けに行くと、彼の部屋から膨大な絵と文章が出てきた。なぜ彼は、そんな膨大な数の作品を生みだしたのか、誰にも分かりません。でも彼は何かをやらずにいられなかったのではないかと思うんです。彼には創作が必要だった。そこに僕の創作と何か通じるものがあるような気がして。彼の場合、部屋に残った作品に価値を見出せる人に偶然見つけられたから作品が世に出た。その結果、僕たちがヘンリー・ダーガーという作家を知ることになった。見つけた大家さんが、作品のすごさや価値が分からないと世には出ていないかもしれない。素敵で不思議な偶然ですよね。そんなストーリーに救われるんです。
ゴミとして捨てられているアートがまだまだ世の中にはたくさんあると思うんです。そういうモノに思いを馳せられるきっかけになればいいなと思います。僕のこんなモノよりもっと素晴らしいものが世界にはきっともっとある。みんなが知らないだけで、あなたはもうそれを作っているかもしれないし、今から作るかもしれない。そういうモノを可視化することが展覧会の最終的な目標になればいいですね。
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2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
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2024/10/26(土) 〜 2024/12/01(日)
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