富野由悠季の世界 -ガンダム、イデオン、そして今
2019/06/22(土) 〜 2019/09/01(日)
09:30 〜 17:30
福岡市美術館
2019/08/17 |
「地球に残っている連中は地球を汚染しているだけの、重力に魂を縛られている人々だ!」「地球は、人間のエゴ全部を飲み込めやしない!」(シャア)
「人間の知恵はそんなもんだって、乗り越えられる!」(アムロ)
「ならば、今すぐ愚民共すべてに叡智(えいち)をさずけてみせろ!」(シャア)
(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より)
『機動戦士ガンダム』に登場するシャア・アズナブルは、40年たった今も根強い人気を誇る。シャアはその後の続編でも主役をしのぐ活躍を見せた。富野由悠季作品における重要人物の1人だ。
仮面をつけたその姿は、まさに格好いい悪役。リアルな人間ドラマを目指した富野は、安彦良和のデザイン案を当初は嫌悪したが、その仮面の下に潜む数奇な生い立ちを設定することにしてこれを受け入れた。シャアはジオン軍の将校だが、実は父の仇(かたき)であるザビ家(ジオン公国を支配する一族)を内側から倒そうと企(たくら)む。彼の父は、ジオン共和国建国に尽力し、宇宙移民者の独立主権を訴え、彼らをニュータイプのエリートとした思想家だ。シャアは、父の仇を討ったうえでその遺志を継ぎ、ニュータイプによる世直しを目指す。
シャアを語るとき、避けて通れないのがこの「ニュータイプ」の概念だ。
これは富野が『機動戦士ガンダム』企画当初から発案していたアイデアで、一種のエスパーのような能力を持つ、宇宙という新しい環境に適応進化した人間のことだ。普通の人(オールドタイプ)よりも勘が鋭く、ニュータイプ同士なら瞬時に互いを理解し合える。宇宙時代においても戦乱を繰り返す人類の未来に希望を抱かせる概念だ。
シャアは自分のニュータイプ能力を自覚するが、ニュータイプの未来を先に体現したのが、ライバルであるアムロ・レイと、シャアの恋人ララァだった。二人は互いのマシンで戦闘中に精神が感応し心を通わせる。ここに嫉妬したシャアが割り込むが、アムロの攻撃からシャアをかばったララァは戦死してしまう。
ニュータイプ革命を夢見るシャアは、ララァという女性を自分の導き手としようとしたが、そこに彼の限界があった。何より、愛し合う相手とニュータイプ的な相互理解が可能とは限らない、という悲劇。
『機動戦士ガンダム』から13年後を描いた劇場作品『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、アムロとシャアは再び対決する。宇宙移民者を抑圧し、環境を破壊し資源を浪費する腐敗した地球連邦政府に愛想を尽かし、シャアは強制的に人を宇宙に移住させて地球環境を回復させるために、小惑星基地を地球に落として寒冷化させようとする。「愚民共すべてに叡智」を与えるためだ。それは粛正以外の何物でもない。シャアの絶望はここに極まった。
しかし、シャアの作戦が成功したとしても、ニュータイプ革命がおこるかどうかは保証の限りではない。ララァの悲劇を体験したシャアは、そのことをわかっていたはずである。結局、シャアの動機はあまりに個人的でありすぎた。
歴史的事象となった数々の戦争や革命は、個人的動機がその根底にあるのではないか。「知恵の在り様」を決するのは、結局のところ人間のエゴを超えられるかどうかにある。
(山口洋三=福岡市美術館学芸係長)=8月7日西日本新聞朝刊に掲載=
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